賃貸マンション・アパートに住んでいると、退去時に、預けている敷金の返還について思わぬトラブルになることがあります。
きれいに使っていればなおのこと、なるべく多く返してもらいたいものですね。
私の経験も踏まえ、あなたが少しでも多く取り戻せるために役立つことをお伝えしたいと思います。
ただ・・・いきなりですが・・
〈全額は、まず無理!〉
なるべく全額返してもらいたいという気持ちはよくわかりますが、現実には難しいと思います。
生活していればどうしても汚したり傷つけたりしてしまいます。その多くはあなたの責任でないものですが、貸主側には貸主側の言い分があります。そして契約書はたいてい貸主側に有利なように書いてあります。
預けている全額を戻してもらうのは、現実的には無理と考えた方がいいと、私は思います。
では、何割くらい戻ってくるのか?これは本当に、大家さんにもよるしなんとも言えませんが、私の経験から言えば 7割返ってくればよいと思います。
なんとしても7割、いやそれ以上でも、戻してもらいましょう!
敷金が返って来ない時にあなたができる(&すべき)5つの事
それでは実際に敷金精算書が届いた時に、あなたができる事、すべき事をお伝えします。
ステップ1
まず、この2つの資料を読みましょう
国土交通省住宅局 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)
→ PDFダウンロードのページ
東京都賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(第3版)
→ PDFダウンロードのページ
東京都賃貸住宅トラブル防止ガイドライン→ 概要のページ
敷金返還に関する問題、注意すべき点がたくさん書いてあります。まずはこれを熟読してください。
特に「原状回復」について。何が借り主の責になるのか、何がならないのか。これがとても大事です。
それから「残存価値」について。何年住んでいれば部屋がこのくらいの価値になるということは、交渉の大きな力となります。
ガイドラインはガイドラインでそれが全てに優先されるわけでもありません。しかしこれを知っていると知らないでは交渉に雲泥の差がつきます。
ステップ2
大家さん(または管理会社)に連絡をしよう
敷金精算書が送られてきて、これはないよ、と思われたら、まずは大家さんまたは管理会社に電話をしましょう。
納得していないということは早めに意思表示することが大事です。この時ですが、まずは喧嘩腰ではなく、きちんと丁寧に話すことが大事です。喧嘩腰で話されると相手も不快になります。
普段、管理会社が管理しているなら、そちらに連絡するのが筋です。ただ、時に管理会社が怠慢や変な動きをすることもあるので、様子次第で直接大家さんとお話することも有効です。
そして、敷金精算書の「疑問点を質問する」ことです。この時に(ガイドラインに照らし合わせて)「精算書のこの部分は私の責ではないはずです」という理論武装が重要になります。よく読み込みましょう。
特に「原状回復と借りた時そのままに戻すこととは違う」ということと「長く住んだ場合は残存価値が減っていく」ということを武器に、きちんとなぜこの金額かということを質問してください。
下げることを折り込んで高く見積もってくることもあります。正当な主張であれば、先方も見積りを下げてくれる可能性は、十分にあります。
ステップ3
交渉してもだめなら公的機関に相談を
穏便に質問しお願いしてもだめな場合は、公的な機関に相談しましょう。
- 国民生活センター 0570-064-370
- 法テラス 0570-078-374
それなりにアドバイスしてくれますし、相手に「国民生活センターに相談をしています」ということを言うのも、それなりに効果があると思います。
とはいえ、相手も海千山千です。それでもダメであれば強行手段に訴えるということになります。
ステップ4
訴訟の前段階として内容証明を送る
内容証明とは、どういう内容の文書を、誰から誰に出したか、というのを郵便局が証明するという制度です。これ自体に法的な効力はありませんが、国が証明した「公文書」となりますし、文章も強いですから、相手方に「本気なんだぞ」と印象づけることになり、<心理的に強く出ることができます。また法律家が存在するということを匂わすことにもなり、有益です。
内容証明は、指定された形式で書き、指定された郵便局に提出する必要があります。制約がたくさんあって、慣れないと少し難しいものです。自分でも書けますが、行政書士さんなどに代書を頼むのが一般的です。私は友人に弁護士がいたので彼に頼みました。
- 賃貸借契約締結の事実と敷金差し入れの事実・金額
例「私は平成○年○月○日、貴殿との間で、○○(住所と物件名)の賃貸借契約を締結し、○月○日より入居していました。」「その時、貴殿に対し、敷金○万○千円を預け入れました」
(相手の名前や物件名は賃貸借契約書に記載されている情報と同じにする) - 賃貸借契約の終了と敷金返還額の見積書の送付
例「上記契約は平成○年○月○日に退去することをもって合意解約致しました。」「○日に完了しております」「貴殿より私に対して○○代として○○円を支払う旨の見積書を送付してきました」
(契約終了の事実を述べる。見積書を受け取った日時を明記する ※敷金返還請求権は賃貸借契約の終了時に発生) - 私が負担すべき費用と理由(負担すべきものがなければ0円であることとその理由)
例「私が負担すべき費用は、以下の理由により、ありません(または○○○円となります)」
相手の主張で、ガイドラインに反しているポイントを全て書き出し、反論する。自分でどこかに見積りをお願いして、その金額を書くなど。 - 私が返還請求する金額と、請求の言葉
例「以上記載した通り、私には○○の義務はありません。よっていついつまでにこの金額(差し引き金額)を振込んでください」
銀行口座・名義など
「上記期間内にそれがない場合は訴訟を起こす」という言葉
法的効力はないにしても、これを送ることで、相手方も、あまり大ごとにしたくないと折れてくることもあります。もちろんその後訴訟になっても、送っているということが一つの判断材料になります。そういう意味での効果はあります。
ステップ5
最終手段は少額訴訟
それでもダメなら最後の手段は訴訟です。敷金返還交渉は「少額訴訟」の対象になります。
少額訴訟とは文字通り「少額」のトラブルの案件で、なるべく簡易にできるように作られた制度です。
条件は、
- 60万円までの訴訟
- 原則として審理は1回のみで判決となる
- 訴訟の途中で話し合いにより解決することもある(和解)
などです。
こちらのページを参考にしてください。
裁判所 少額訴訟のページ
http://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/l4/Vcms4_00000353.html
少額訴訟の書式
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_minzisosyou/syosiki_02_04/
敷金返還請求の書式PDFもダウンロードできます。
私も、少額訴訟を起こそうと、だいぶ動いたことがあります。
しかし・・・いろいろあって、断念してしまいました。
正式な訴訟と較べ簡素化されているとは思いますが、まだまだ一般人にはハードルが高いように感じました。可能なら司法書士さんなどに入っていただけるといいと思います。
私の敷金返還交渉体験談(抄)
東京時代は安アパートばかりで、金額的にも大したことはなく、あまり覚えていません。入居も2年から5年くらいまでまちまちですが、平均して6割くらいだったようにと思います。まぁそんなものかなと思っていました。
広島で事務所ビルを借りて開業しましたが、10年ほどして退去した時に、預けた85万円がごくわずかしか戻ってこず、貸主側の対応も悪く、本当に困りました。
なんとか返還してもらおうといろいろ努力をしましたが、残念ながら途中で交渉を断念してしまいました。
その後、広島で約20年住んだ賃貸を退去する時は、やはり戻りが想像より少なかったのですが、大家さんと良穏便にお話しをして、だいぶ戻る金額が増えました。
敷金を返してもらう権利(敷金返還請求権)は時効があります。法律の解釈の違いで10年というのと、5年という2つの考え方があるようですが、5年と考えていた方が良さそうです。
5年以内、あるいは5年が過ぎても大家さんから「時効だからだめ」と言われない限り、請求できることになっています。しかし、そもそも退去の際に支払ってくれなかったところが、5年経って支払ってくれる可能性はきわめて低いです。請求は退去したその時に、が鉄則です。
敷金返還のトラブルは本当に大変です。裁判になると、時間も手間もかかるし、精神的にへとへとになります。
そして、不動産管理会社はその道のプロです。当然敷金返還交渉についても我々よりも何十倍も手慣れています。そういう人を相手に素人が交渉するのですから本当に大変です。
交渉するなら自分でもしっかり理論武装し、できるだけ司法書士さんなどの助けを借りること。
それよりなにより、そうなる前に管理会社や大家さんと話し合いで解決するのがいちばんです。
「私もこれは譲りますから、この部分は譲ってください」という交渉をすれば、上手くいくことも多いはずです。無理に8割7割取れなくても、穏やかに6割取れたらいいか、の方を私はおすすめします。
頑張ってくださいね!
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